会長メッセージ

毎年、多くの若い方々が分子科学討論会に参加し、元気よく発表し、仲間と交流し、時には質問への答えに窮するような場面を経験し、帰って行く様子を私達は頼もしく拝見しております。分子科学の世界に足を踏み入れた若い方々は、学問の瑞々しさ、厳しさ、小さな達成感を感じながら、人間的にも学問的にも成長しておられる所と思います。その成長こそ、私達にとって何よりも嬉しいことです。そして私達も多くを学んでおります。

人は誰でも限られた人生を誰か、あるいは何かの為に役立てたいと思う本性があります。若い方々の中には、自分が取り組んでいる研究が社会の役に立つのであろうか、意味があるのだろうかと悩むこともきっとあるでしょう。特に、昨年の東日本大震災や原発事故の後、殆ど例外なく考えられたことと思います。私達は、現代の科学・技術あるいは、政策や社会システムには、未来のために立ち止まって考えねばならない問題があると深く認識しました。しかし、同時に、人類の未来を切り拓き、人々を幸福で豊かにするためには、科学・技術の力量を高め、真に価値のある創造的な研究に一層邁進しなければならないと決意を新たにしている所でもあります。生命科学・材料科学・あるいはエネルギー科学まで、分子科学の寄与する範囲は極めて広く、皆さんの前途には広大な世界が開けています。幸福や豊かさとは一体何か。そのために科学者や技術者は何を目指すべきか。それらも皆さん一人一人が考えながら、大きな希望を持ち果敢に前進して行きましょう。過酷な体験から立ち上がる今、分子科学会は、若い方々の未来に向かう力強い前進と各方面での活躍を応援しつつ、今年も分子科学討論会を開催し議論を深めます。どうぞ、是非ご参加ください。

2012年1月
第3期分子科学会会長
鈴木 俊法