第1回分子科学討論会が、仙台で開催される運びになりました。これに至る経過をご説明し、関係各位の参加を募りたいと思います。
分子科学は、広く分子および分子集合体の構造・反応・物性を研究する学問分野です。対象とする分子は、簡単な分子から生体分子や高分子におよび、そのおかれる環境も、孤立分子からクラスター、液体・溶液、結晶・薄膜や表面吸着状態、生細胞、さらには高圧下や高温・低温、宇宙空間、強光子場のような極限環境まで様々です。分子はこれらの環境に応じて多彩な構造、種々の反応、様々な性質を示しますが、それらを量子論的、化学結合論的、統計熱力学的な原理がつらぬいており、対象とする系の階層に応じた法則が存在します。
我が国では、化学・物理分野の先達の方々が、早くから自然科学におけるこれらの問題の重要性に着目し、この分野を「分子科学」と命名して精力的に研究を展開されました。また、この分野を総体として討議することの重要性を認識され、1964年、それまで別々に行われていた討論会を統合して「分子構造総合討論会」を開始され、以来この討論会は大きく発展して、最近では1,200〜1,300名の参加を得て約900件の研究発表を行う、物理化学・化学物理学とその周辺の学際領域を包含する屈指の討論会に成長しました。
「分子構造総合討論会」は、担当校を中心とした、いわゆる手弁当で討論会の開催・運営を続けてまいりました。2000年からその運営を改革し、参加者の総意を得た運営委員会を設置して、種々の問題の継続的討議が可能な、開かれた運営を行ってまいりました。さらに、
-
1) 分子科学をさらに振興するための恒常的活動を保証する組織
2) 分子科学のプレゼンスを分野の内外に示すこと
3) 分子科学分野の若手育成のためのホームグランド
4) 分子科学分野の発展と共に大きくなった討論会や研究会を恒常的組織として運営し、より高いサービスを提供すること
「分子構造総合討論会」は、「分子科学会」の討論会である「分子科学討論会」に生まれ変わることになりました。名称は変わりますが、「分子構造総合討論会」の良き伝統を継承していきます。すなわち、「分子科学討論会」で発表される研究の主題は、分子構造や反応論、種々の分光法や回折法などの実験手法、クラスターや液体・溶液、分子性固体、高分子・液晶・生体関連物質などの性質ならびに機能、さらには表面科学等におよぶ広い対象物質や現象の実験的・理論的扱いを含んでいます。そして、討論会の精神は以下のようにまとめられます。
-
(1) 分子と分子集合体について、これまで蓄積されてきた広く深い物理的・化学的な知識に裏打ちされていること
(2) 広大な対象物質群がさまざまな環境下で示す多彩な構造・反応・物性を、これらの基礎的知識や、新たに展開される研究成果によって正しく理解すること
(3) これらの理解をもとに、優れた機能の発現と制御、新たな興味深い性質を示す物質系の創造、生命現象の分子論的理解を追求すること
また、「分子科学討論会」では、自由で闊達な雰囲気の討論会としての良き伝統を継承します。広く開かれた討論会運営を継承するため、討論会の登壇条件を分子科学会の会員に限っておりません。上記の内容に関わりのある方なら、会員の如何を問わず参加できます。
このように「分子科学討論会」は、「分子構造総合討論会」を発展的に継承する討論会です。基礎知識に裏付けされた発表、深く本質を掘り下げた議論、自由で闊達な討論が我々分子科学分野の発展の礎になることは疑う余地のないことです。分子科学分野のホームグランドで皆様に是非ご活躍していただくため、ご参加をお願いいたします。
分子科学会 会長 西川恵子